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旅人 : 今泉 清保 (HPはコチラ

阿蘇の草原を守れ!!〜草原の再生に力を注ぐ人々〜

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 草原は、放っておくと次の年にはやぶになり、数年すると林になっていずれは森になり、
そのままでは二度と草原に戻らないというのをご存知だっただろうか。私は知らなかった。
草原はずっと前からただ草原なのだと思っていた。
  今回阿蘇にやってきたのは、阿蘇の草原を守る取り組みを取材するためなのだが、大体にして草原を守るというのが
わからなかった。

  阿蘇は、真ん中に5つの山があり、その周りをくぼ地が囲み、さらにその外側を外輪山と呼ばれる山が
取り囲んでいるという不思議な地形だ。9万年前までに4回の噴火があって山が陥没し、その真ん中がまた山となって
盛り上がって今のような地形になった。現在でも活動を続けている中岳の火口付近は地面が見えているが、
そのほかは美しい草原が広がっている。ときどき牛も歩いていてとてものどかな光景だ。

 その阿蘇の草原がピンチなのだという。最初に、草原は放っておくとやぶになり林になると書いた。
つまり、この広大な草原を守るためには人の手が必要なのだが、その人手が減っているというのだ。

  考えてみれば、庭だって畑だって放っておけば草ぼうぼうになるから草刈りをする。ということは草原だって
草刈りをすればいいわけだが、あの広大な草原の草を刈るだなんて無理だ。それで、毎年3月に野焼きが行われる。
若葉が生い茂る前に枯れ草に火をつけて燃やしてしまうわけだ。

  なーるほど、燃やせば簡単だ。…というわけにはいかない。ただ火をつけてしまったら、人の住んでいる土地にまで
燃え広がってしまう。山火事と野焼きは違うのだ。何が違うかというと、野焼きの前に、燃えてはならない地域との境目の草を
刈っておいて、それより先には火が広がらないようにするところ。これを「輪地切り」という。
全部を刈るよりはラクかもしれないが、輪地切りをする長さは熊本から静岡までの距離になるのだと聞いて驚いた。
人手が足りないのでボランティアを募っているそうだ。

 私もちょっとやってみた。最初は楽しかったがすぐ腰が疲れた。教えてくれたアクティブ・レンジャーの永原彰子さんに
「これはなかなか大変ですねぇ」と言ったら「こうやって刈った草を束ねて運び出すのがいちばん大変です」ということであった。

  そうなのだ。草は刈ればそれで終わりではない。草刈りのもう一つの目的は、牛のえさや堆肥作り。刈った草を牛が食べ、
牛舎の敷き藁になり、さらにその草から堆肥を作って、それが畑の野菜の肥料になる。だから、草は刈らねばならないし、
刈った草は運び出さなければならない。まさに、阿蘇の草原は人が守っているのだ。



草原の刈った草と、草原で放牧された牛の堆肥で作る野草堆肥

 草原堆肥で作ったタマネギを畑でまるかじりした。甘くておいしかった。阿蘇の野草堆肥で育った野菜には
「草原再生シール」が貼られている。例えば、シールが貼られたトマト1コを食べることで、20センチ四方の阿蘇の草原を
守ることにつながるのだとか。もし店頭で見かけたら手に取ってみてほしい。おいしいので。

  草原を守ることは、草原の生き物を守ることでもある。阿蘇には、もう阿蘇にしか残っていないような珍しい草花や生き物が
たくさんいる。これらの珍しいものも、草原を守らなければ生きていけない。

  例えば草原に生えるクララという植物。私は名前を聞いて、ハイジのお友達のクララを思い浮かべたのだが
(これって二十代の人にはわかんないかなぁ)根を噛むとクラクラするほど苦いからクララなんだそうだ。
そして、そのクララを食べて生きるオオルリシジミという蝶がいる。この蝶は環境省のレッドデータブックの絶滅危惧種に
指定されている。東北地方や長野にも生息はしているらしいが、良好な生息地は阿蘇だけだそうだ。
オオルリシジミがいなくなってしまうと、クララの生態系にも変化があるかもしれない。



クララ


クララとオオルリシジミ

 高森町にある「休暇村 南阿蘇」の隣にある「阿蘇野草園」では、珍しい阿蘇の野草をまとめて見ることができる。
訪れたときには「ハナシノブ」という可憐な花が咲いていた。これも絶滅危惧種だ。そしてやはり、弱くて小さな草なので、
草原を守らないと生きてはいけない。



ハナシノブ

 ところが、こういう貴重な草花を盗掘する人が跡を絶たないのだそうだ。今回の取材で、草原のどこを訪れたか、
私達は一切喋っていないし撮影してもいない。それをたどって盗掘する人がいるからだ。
その話を聞いてなんともやりきれない気持ちになった。

  花が好きだったら、花はそこに咲くから愛しいのだと思ってほしい。花はその土地だから生きているのだ。
家に帰って育てても、環境が違うので大抵は育てられないそうだ。ただでさえ少ない貴重な花を枯らして、
それで花が好きというのは違うんじゃないか。

 取材の最後は、阿蘇のあか牛のバーベキューを「やま康」というお店でいただいた。草原をのどかに歩いていた牛を
食べるのはちょっと複雑だが、おいしくいただくことも阿蘇を守ることにつながるのでちゃんといただいた。
赤身にしっかりと味があっておいしかった。

  阿蘇の広大な草原は、人の手によって千年もの間守られてきた。しかし草原の面積は減り続けている。
次の千年までこの美しい草原を残すために、阿蘇の皆さんは頑張っている。阿蘇はいいところなのでぜひ行っていただきたい。
そして、広大な草原を守る人がいることの大切さを、少しだけでも感じてもらえたらと思う。

 

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