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旅人/撮影 : 中村隆之

野田知佑さんと日本一の清流・
             
四万十川を下る“川旅”A

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野田知佑さんと日本一の清流四万十川を下る川旅(後編)


◎キャンプの朝

野田さんは早起きだ。例えばユーコン川でオーロラの出現を待って夜更かしすると、ついつい寝坊してしまう。
すると「起床ハモニカ」でみんなを起こすのだ。それには理由があって、夜明けを迎えだんだんと目覚めて行く川辺には、
普段と違う色が溢れているから。あっというまに俗化?して見慣れた景色になってしまうのだけれど・・・
そんな「特別な時間」をぼくらに見せたいのだと思う。

◎図書案内

今回野田さんが河原書斎で読んでいたのは「Hell West and Crooked」という作品で、オーストラリアのアウトバックが舞台。
実在したクロコダイルダンディーの話だ。
◎朝ごはん

朝6時になると山仕事へ行く人のためにお弁当が売り出されるという話を聞いたので、早起きして買いに行ってみた。
作っているのは昨夜お世話になった民宿舟母(せんば)の女将さん(クーネエ)たち「小町会」のみなさん。
お赤飯と巻き寿司を買う。

お赤飯は甘い味で最初はビックリ。関東ではごま塩をかけて食べるから「お赤飯=塩味」と言うイメージしか僕には
無かったけれど、甘いのも意外に美味しい(ちょっとあんこに似てる味がしました)。

同時に購入した巻き寿司は、海苔の代わりに薄焼き卵や昆布で巻いてあった。酢も柑橘類を使っているらしく
良い香りのするお寿司。今朝はあわせて焚火で簡単なおかずとスープを作って朝ごはんにした。

手早くキャンプを撤収して、まだ朝霧の残る川へ漕ぎ出した。
◎初めて漕いだときのこと

今回の川旅に使っているカヤックはフォールディングカヤックと言って、組み立て式のカヤック。
折り畳むとスーツケースほどの大きさになる。重さは約20キロで日本製。

15年ほど前、はじめて自分のカヤックを手に入れて川へ漕ぎ出したとき、その「自由さ」に衝撃を受けた事を今でも思い出す。
そして「世界はひとつの水面で繋がっている」ということに改めて気付いたのだった。

自然が作り出した水面(と15センチほどの水深)さえあれば、自分のチカラだけでどこまでも行ける。
これまでおこなって来た登山や自転車と違って、カヤックはトレイルを必要としないし、船だけど港も必要としない。
それは僕にとって、人が住んでいない辺境や極地でも自由に移動出来るということを意味していた。
旅の道具としてのカヤックに、無限の可能性を感じた瞬間だった。

◎僕の川旅

「文学的旅行者」という言葉がある。ブルース・チャトウィンという作家が作品の中で使っていた言葉なのだが、
僕の旅スタイルにぴったりな表現だったので気に入っている言葉。

カヤックという旅の道具を手に入れてからは、新田次郎の「アラスカ物語」やリチャード・プローンネクの
「独りだけのウイルダネス」、アルセーニエフの「デルスウ・ウザーラ」など文学作品の舞台となった場所ばかりを旅してきた。

北極圏、アラスカ、極東ロシア・・・一番の理由は自分自身が旅の魅力を感じるのでその場所を選んでいるのだが、
作品と同じ環境に身を置くことで、のちにその内容をより深く理解できるというのも大きな理由のひとつ。
また実在の主人公が体験した「ワクワク感」に少しでも近づけたらとも思っている。

10数年前にユーコンへ旅したのも、最初は野田さんの作品の舞台となった場所を見たかったから。
その荒野の魅力に取り憑かれて、その後毎年通うようになるのだけれど・・・。



◎川漁師さん

全長196キロの四万十川。流域にはたくさんの伝統漁法があり、現在も行われている。投網漁にはじまり鮎の火振り漁、
コロバシ漁、カニカゴ漁、柴づけ漁、ガラ曳き漁、石黒漁、あおのり漁など、一度は体験してみたい興味深い漁法ばかりだ。

カヤックで川旅をしていると目にする事も多いはず。今回もコロバシ漁(エビ筒を使った漁法)を行っている漁師さんと出会い、
いろいろ話を聞くことができた。
◎音楽

長く荒野を旅していると不思議と音楽が聞きたくなる。例えば天気の良い日に、気持ちよく川を下っている時などは特に。
そんなとき「音楽も自給自足だ」と野田さんは言い、ハモニカを吹いてくれる。川面を伝って聴こえて来るハモニカの音色に
耳を傾けながら、パドリングの手を休めのんびり漂うのは最高の気分だ。
◎沈下橋

カヤックから見る四万十川流域の景色で、印象的なのは沈下橋のかかる風景。

沈下橋は、川とともに生きる流域の人たちの知恵から生まれた橋で、台風などの増水時には名前の通り川に沈んでしまう橋。
橋の欄干を作らず角に丸みをもたせることで、流木などが流れてきても橋に引っ掛からず、水中での抵抗も最小限に
抑える事ができる。橋そのものが流されないように作られているのだ。

そんな機能的なデザインなのだが、その微妙な丸みが優しく柔らかい表情を生んでいる。そしてまわりの風景に溶け込み、
調和して四万十川らしい景色を作り出している。

四万十川の本流、支流をあわせると沈下橋は40本以上かかっているという。カヤックで全部の橋をくぐってみる
「沈下橋ツアー」なんてどうだろう?もし夏だったら川ガキに混じって全部の橋から川へ飛び込んでみるのも
面白いかも知れない。






◎しゃえんじり

口屋内(くちやない)に上陸して「しゃえんじり」という名前の店で、野田さんとお昼ごはんを食べる事にした。

「しゃえん=菜園+じり=端っこ」という意味の店名を持つこの農園レストランは、地元の女性達が中心となって
立ち上げたもの。名前の通り自家用に作った菜園の野菜と地元でとれる季節の食材を使った郷土料理が、
ビュッフェスタイルで楽しめる。

田舎寿司、エビそうめん、川エビのかき揚げ、アメゴの南蛮、煮物など美味しそうな料理がのった大皿がいくつも並び、
迷ってしまうほど。もともと幼稚園だったという敷地内には、四万十川を望むテラス席も作ってあって、
天気が良ければ気持ちのよい時間が過ごせるはず。

料理をお弁当にして配達してくれるサービスもあるそうなので、次の川旅にぜひ使ってみたいと思う。

◎竹内商店

お世話になった民宿舟母(せんば)の向かいにある竹内商店。

「竹内のおばちゃん」は話好き&世話好きな楽しい女性で、野田さんとも仲良しだ。この店は洗剤からアイスまで
何でも揃っているよろず屋で、川遊びの道具も買える(しかも野田さんのサイン入りだったり)。

またおまけを付けてくれる事でも有名で、ぼくらも今回の川旅のためにエビ鉄砲やエビ玉などを購入したら、
おまけで薪とアイスを貰っちゃいました。おばちゃん、ありがとう。
◎黒尊川

野田さんが四万十川で一番気に入っているという支流・黒尊川を案内してくれた。

飛び込みたくなるくらい透明度が高く、泳いでいる魚がたくさん見える。早瀬にカガシラ(毛針)をひと振りすると、
ぷるぷるとした手応えがあってカワムツがあがって来た。
遠くでシカの鳴き声が聞こえる。次の機会はぜひここでキャンプしたいと思った。

◎野田さんが教えてくれたこと

今回は2回にわたり僕が「野田スタイル」と呼んでいる、尊敬する作家・野田知佑さん流の川旅スタイルを紹介した。

野田さんが教えてくれた川旅は、無理をせず、のんびりゆっくりが基本の「晴漕雨読の旅」。晴れたら漕ぎ、
雨が降ったらテントでお気に入りの本を読む。

人との出会いも大切にしたい。誰かと出会ったら挨拶をして、わからないことは積極的に尋ねてみよう。
友人知人が出来ればその土地の魅力が増すし、もし旅先で親切を受けたら忘れられない体験になるだろう。
そしていつか心の中をその川が流れ始めるはずだ。

そうやって野田さんは何年も川旅を続けて来た。
カヤックやカヌーによるツーリングはそれほど難しいものではない。
「まずは漕いでみよう。書を持って旅に出よう」それが野田さんからのメッセージだ。

                                                              中村隆之

 
取材協力/(株)モンベル

<今回川旅で訪問した、野田さんおススメの立ち寄りスポット>

◆民宿「舟母(せんば)」
  川の幸、山の幸いっぱいの夕飯が楽しめる!
  西土佐口屋内  TEL:0880-54-1002

◆農家レストラン「しゃえんじり」 
  地のものを使った、野菜が豊富な料理を1000円で食べ放題
  営業時間 11:30〜14:30(水曜定休)
  西土佐口屋内 TEL:0880-54-1477

◆雑貨屋「竹内商店」(口屋内)
  野田さんのサイン入りチャーン鉄砲(エビ鉄砲)があるお店
  他に、エビタマ(網)、セルビンもあります
 
◆レンタカヌー「シマムタ共和国」(口屋内)
  四万十川で唯一、カヌーやカヤックをお好みの場所まで
  運搬してくれる。
  ご主人の手作りの小屋「四万十野田邸」があるのもここ

野田知佑(のだともすけ)

カヌーイスト、作家。熊本県出身。教員、雑誌記者を経て執筆活動に。
日本におけるツーリングカヌーの先駆者で、
国内をはじめ世界中の川を旅する。
また「川遊びカヌー」を提唱し、川の楽しみ方を読者へ伝える一方、
河川改修やダム開発など公共事業による川の環境破壊を
カヌーイストの立場から告発し続けている。

日本初のカヌーに乗れる犬「カヌー犬・ガク」を育てた事でも有名。
(ここに写っているのは現在のカヌー犬、一緒に暮らしている
ボーダーコリーのアレックス)

2001年からは吉野川・川の学校の校長として、
川ガキの育成にあたっている。

82年『日本の川を旅する』で第9回日本ノンフィクション賞新人賞受賞。
88年一連の活動に対して毎日スポーツ人賞文化賞を受賞。

主な著書
「今日も友だちがやってきた」
「日本の川を旅するーカヌー単独行」
「ユーコン漂流」
「北極海へ」
「世界の川を旅する」
「なつかしい川、ふるさとの流れ」
「少年記」
「旅へー新放浪記」
「カヌー犬・ガクの生涯ーともにさすらいてあり 」等多数

今回の旅人、アウトドアカメラマンの中村隆之(なかむらたかゆき)です。

カヌーやカヤック、ラフト、マウンテンバイク、トレッキングなど、
自然環境へのインパクトの少ない「人力」という方法を使って世界中の
辺境&極地に入り、そこに暮らす人々の文化や自然を写真におさめて
発表しています。

これまでアラスカ、ロシア、カナダ、スイス、ニュージーランド、日本など、
国内外へ30回以上の遠征を行いました。
最近一番心に残った遠征先はグランドキャニオンの川下り。
個人の入域許可が下りるまで12年待って、夢のような1ヶ月の
激流生活を過ごしました。

11月10日と12月10日発売のBE-PAL誌には、
作家の野田知佑さんとこの番組でも取り上げた「吉野川・川の学校」の卒業生2人とこの夏おこなった、
ユーコン川遠征の模様が掲載される予定です。

 

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