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旅人:今泉 清保 (HPはコチラ

北国に春を呼ぶ、伝統の祭り
〜八戸えんぶり 後編〜

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 前編の放送でご紹介したように、えんぶりは2月17日の朝7時に始まる。 そのため私達YAJIKITA取材班は、
前の日の夜に新幹線で八戸入りした。

 街の下見も兼ねて繁華街をうろうろと歩いていたら「みろく横丁」という屋台村があった。
細い路地に小さなお店がひしめいている通り。せっかくだからどこかに入ろうかと思ったら、どのお店も混んでいて入れない。
残念だなーと思いながら歩いていたら、一軒のお店のお母さんが声をかけてきた。
えんぶりの取材に来た、と話すと「明日は一斉擦りでうちの孫が踊るから見においでよ」と誘ってくれた。

 そして翌日。雪が無くて暖かいとはいえ、風が冷たくて手がかじかんでしまうので、
繁華街にあった100円ショップに飛び込んで手袋を買った。会計を済ませて店を出ようとしたら「あら」と声をかけられた。
昨日のお店のお母さんであった。

  きのう誘ってはもらったものの、人が多くてきっと会えないだろうと思っていたので驚いた。改めて場所を教えてもらい、
お母さんの紹介で「横町えんぶり組」の皆さんにお話を聞くことができた。旅はこういうことがあるから面白いのだ。

 お母さんの話によると、夜には屋台村にもえんぶり組がやってくるという。お祭り広場で、かがり火を灯して行われる
「かがり火えんぶり」を取材したあと、昨日のお店に行ってみた。えんぶり組の姿は無く、お母さんに聞いてみたら
「あらー、さっきまでじゃんじゃんやってたのよ」ということであった。

  残念だが仕方が無いのでここで取材終了。お世話にもなったことだし、
せっかくなのでそのお母さんのお店「鳥将」で晩御飯をいただくことにした。

 お祭り広場の屋台でもいただいた鯨汁がここにもあったので、早速注文して冷えた体を温めていたら、
えんぶりのお囃子が聞こえてきた。昼間見られなかった人のために、飲食店があらかじめ、
なじみのえんぶり組にお願いして舞を披露してもらうのだそうで、ちょうど隣の店にえんぶり組がやってきたのだ。

  狭い路地で踊るので、まさにかぶりつきで見ることができた。太夫たちの頭を振る仕草など、間近で見ると迫力がある。
周りのお店のお客さんがみんな食べるのを一休みして、舞に魅入っているほどだ。

 この日の取材は終了、の予定だったのだが、せっかくなのでリポート開始。これまた旅の面白さ。

 舞にはいくつか種類があるのだが、中に「恵比寿舞」というおめでたい舞がある。
小学生ぐらいの男の子がやっている組が多いのだが、とてもユーモラスな舞だ。
ひものついた竹竿を持った男の子が恵比寿様に扮し、鯛を釣る様子が演じられる。男の子の前には大人がしゃがみ、
ひもの先をつかんで竿をしならせる。釣れそうで釣れない、というのが2回ほど繰り返されたあと、
おもちゃの大きな鯛がくくりつけられて、見事釣り上げました、ということになる。イカの水揚げ量日本一という漁業の街、
八戸ならではの舞だ。

  見ていたら、その鯛に千円札が貼られている。こんなご祝儀の渡し方があるなんて!

 家々やお店をまわる「門付け」は、夜の9時までと決められているそうだが、それまでは大人も子供もひたすら踊る。
鯛を釣る男の子は、朝から踊り続けているはずなのに、まったく手を抜かずに表情豊かに踊っていて、
見ていて微笑まずにはいられない。私だけじゃなく、他のお客さんもみんな笑っている。  

 一斉擦りやかがり火えんぶりは、離れて鑑賞するえんぶりだ。それはそれでとても面白いのだが、
八戸を訪れたなら、ぜひ夜の街に出かけて欲しい。間近で見る迫力ある舞が楽しめるはずだ。

 さて、今回はえんぶりのほかにもう一つ、八戸の郷土料理の取材があった。その名は「せんべい汁」。
私は青森市出身だが、今回初めてその名前を聞いた。もちろん食べたことも、見たことも無い。

  八戸に限らず、青森や岩手県北部でせんべいといえば「南部せんべい」だ。小麦粉をこねた生地を型に入れて焼いて作る。
サクサクとした軽い食感が特徴で、ごまやピーナッツを入れたものが多い。私も南部せんべいで育った。
しかしあのせんべいを汁の中に入れたことは一度も無い。どういうことだろう?

 またまた「みろく横丁」のお店「わが家」での取材。せんべい汁について教えてくれるのは、
八戸せんべい汁研究所の木村聡さん。ちなみに研究所は略して「汁研(じるけん)」と呼ばれているそうだ。アハハ。

 木村さんによると、せんべい汁はお店で食べるものではなく、一般家庭でごく普通に食べてきたものだそうだ。
あまりに当たり前で、しかもとりたてて手がかからないので、木村さんを始めとする「汁研」の皆さんが広めようとするまでは、
八戸以外にはほとんど知られていなかった。私が知らないのも当然というわけだ。

 さて、せんべい汁とはどんなものか。肉や魚、鳥でダシを取った汁の中に、南部せんべいを割って入れ、
せんべいがやわらかくなったところでいただくものだ。といっても、入れるせんべいはおやつで食べるものとは違い、
煮込んでも溶けにくいせんべい汁専用のものだ。お店では「おつゆせんべい」という名前で売られている。
他にも、鍋の締めに麺、ではなくてせんべいを入れたりするそうだ。

 まずは基本的な、鶏のだしで醤油味のものからいただいた。ぱりぱりに固いせんべいが、
程よく汁を吸って柔らかくなっているが、全部が溶けずにちゃんと噛みごたえがある。
木村さんいわく「せんべいのアルデンテ」だそうだが、まさにそんな感じ。せんべいにしみ込んだダシが、
噛むとじわーっと出てきておいしい。

  魚のダシに貝やウニなどを合わせた豪華なせんべい汁もいただいた。こちらもおいしい。
せんべいに味がついていないので、どんな汁物に入れてもジャマしないし、とても腹持ちがよい。

 木村さんによると、これも八戸の厳しい風土が生んだものなのだという。米が無くても、せんべい汁ならお腹が膨らむ。
苦しい暮らしの中から生まれた知恵なのだ。

  このせんべい汁を広めようと、地元のラジオでパーソナリティをしている男性2人と女性1人のグループ
「トリオ☆ザ☆ポンチョス」が、せんべい汁の歌を作った。題して「好きだDear! 八戸せんべい汁」。
振りもあって、青森県内でじわじわと広がっているのだが、
ある日この歌をイベントで耳にした音楽プロデューサーの佐竹さんがレコード会社に売り込み、
なんと全国発売されてしまった。「せんべい〜じるじる」というフレーズが耳に残る陽気な歌。

 八戸のことはよく知らなかったのだが、いい街だと素直に思った。街の人が祭りを愛し、食べ物を愛している。
どこか懐かしくて温かい。東北新幹線の開通でずいぶん行きやすくなった八戸を、ぜひ訪れて欲しい。

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