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旅人 : 西村美月

源氏物語千年紀。源氏物語ゆかりの地を訪ねて…。

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というわけで、2日目。

源氏物語に登場する「嵯峨野」と「宇治」という、ふたつのゆかりの地をめぐる旅です。
この旅のアテンドをお願いしたのは、園田学園女子大学教授の、福嶋昭治先生。
源氏物語の研究者の解説付きでゆかりの地を巡るなんて、こんな幸せな経験はなかなか出来ませんよ!!

まず向かったのは、嵯峨野。
明石の君が、光源氏との間に出来た娘を京で育てるために上京してきた時、最初に住んだお屋敷の近くとされる、
嵐山は大堰川のほとりです。
すぐ左手に渡月橋が見える風情のある所で、今では人足が絶えない観光スポットですが、当時の感覚では、
京から離れた郊外地だっだそうです。
いくら明石の君が田舎育ちの身分が低い姫でも、生まれた娘は、世の栄華を極めた光源氏の子。

ゆくゆくは帝の妃にもなれる可能性がある姫君です。
光源氏は、明石の君が娘を産む直前に謹慎を解かれ京に戻ってしまい、しばらく離れて暮らしていました。
そもそも明石の君は、娘さえいなければ、京にあがることなど考えてもいなかったのです。
だって、京に行けば、光源氏のお傍には他にも姫が何人もいる。
その中で、自分が一番身分が低い。
そんな場所に行って惨めな思いをするのだけは嫌だったのでしょう。

でも、娘の将来を思う一心で上京した明石の君。
光源氏が自分のお屋敷に用意していた部屋ではなく、あえて郊外の嵯峨野に居を構えたことで、光源氏はまたしても、
明石の君の身の処し方の賢明さに惚れ直してしまいます。
読者としては、のろけられっぱなしです。

この嵯峨野という土地は、郊外とは言え、京の貴族たちにとっては重要な場所でした。
特に、神仏によって身を清めるのに重んじられた土地柄で、光源氏が、
恋人の一人である「六条の御息所」と呼ばれた人と別れたのも、この女性の前夫との間に生まれた姫が、
伊勢神宮に使える「斎宮」という巫女になるべく身を清めるために1年間修行した「野宮神社」ですし、光源氏自身が、
いずれ出家する時のために立てた「桂の御堂」も、すぐ近くにあります。

実は紫式部、物語にリアリティを持たせるため、登場するゆかりの地にはきちんとモデル地を設定して書いています。
「桂の御堂」のモデルは、清涼寺というお寺です。

清涼寺は、光源氏のモデルとされる「源融(みなもとのとおる)」という人の山荘を寺にあらためたところで、物語の中では、
実在し立派な寺として有名だった大覚寺との比較で、読む者に「桂の御堂」がいかに素晴らしかったか想像させています。

このことは、午後に向かった宇治でも、同じ事が言えるんです。
福嶋先生が宇治に着いて最初に連れて行ってくださったのが、中心地を流れる宇治川にかかる「宇治橋」。
「橋姫伝説」でも有名な橋です。

ここからの眺めはすごい!
源氏物語の中でも、光源氏亡き後の「宇治十帖」に出てくる主要スポットが一望できるんですよ。
上流に目を向けますと、向かって右側に平等院、左側に宇治神社があります。
このふたつの建物は、川を隔ててちょうど向かい合っているんです。
平等院は、紫式部が使えた中宮彰子の父・藤原道長の山荘だった場所として有名ですが、道長の前は、
あの源融の所有で、当然物語では、光源氏の別荘に設定されています。

一方、宇治神社は、悲劇の皇子として日本書紀に伝説が残る「菟道稚郎子(うじのわきいらつこ)」を祀る神社です。
「宇治十帖」に登場する主だった人物は、光源氏の息子として育った「薫」と、孫の「匂の宮」。
そして、光源氏の異母兄弟で、かつて権力争いに利用されたあげく京を追われ、山里暮らしを余儀なくされた「八の宮」と、
その娘たちです。
その「八の宮」のモデルとなったのが、「菟道稚郎子」!
なんと、権力争いに負けた悲劇の皇子という点が、全く同じ設定なんです!!
だから、「八の宮」が娘たちと静かに暮らしていた山荘に設定されている場所が、宇治神社というわけ。

紫式部は、日本書紀をはじめとした歴史書に詳しく、さらに宇治の立地も熟知して、この「宇治十帖」を書いたんですね。
どこまで、頭がいい人なんでしょう。
私たちはその後、平等院と宇治神社も見て回りましたが、平等院のあまりの観光客の多さに比べて、宇治神社は、
その上に国宝の「宇治上神社」を配しているにもかかわらず、閑散としていることに驚きました。
まるで、光源氏の血筋の繁栄と、八の宮の侘しい身の上の対比が象徴されているようでした。

「源氏物語の素晴らしさは、著者・紫式部の才能の高さによる所が主ですが、
むしろ私は、 それをよくも私たちのような代々の“凡人”が
千年もの長い歳月に渡って伝えてきたということのほうがすごい事だと思うんです」とおっしゃった福嶋先生。

学識深い人も、ただ娯楽として楽しみたい人も、文学としても、文化としても、どんな形でも楽しむ事ができる、
稀代の小説「源氏物語」。

その一端に触れ、旅が終わってから再びページをめくり始めてしまった、今日この頃です。

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